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年月を重ねて生まれた、「美しさ」が色あせない家

「家を育てる暮らし」で見つけた、年月を重ねることで得られる美しさ

ご主人のお仕事の関係で、ドイツで数年を過ごされたU様。帰国後は、福岡市内の南向きのマンションに移り住みましたが、U様にとっては日差しが明るすぎて落ち着かないお部屋だったそうです。「同じ福岡市内で、かつて暮らしていたドイツのようなおうちに住みたい」と思い立ち、築30年の中古住宅を購入。フルリノベーションをしてから10年の月日が経ちました。

キャンドルが似合う黄昏時。穏やかな光が生み出す美しく心地よいLDK

「この家は、雨の日が一番素敵に見えると思うの」

1月の小雨が降る日に訪れると、そう話してくれたU様。その言葉通り、案内されたおうちは雨のベールに包まれたような静けさと、美しさが備わっていました。

10年前に、今の住まいで暮らしを始めたU様。家づくりを考えていた頃、一度は建築家の方への依頼を検討しましたが、そんなときに出会ったのがフーセットでした。「フーセットのサイトを見ると、私たちが以前訪れたスイスのとある地方の滞在記録がブログに掲載されていたんです。代表の中西さんがご訪問されたようですが、なかなか辺鄙(ぺんぴ)な場所で、日本からわざわざ訪れる人はとても少ないエリアです。ブログが気になって読んでみると、自分たちの考えにとても近い方だと感じて、フーセットなら私たちの意向をしっかりくみ取って、話し合いながら家づくりができると感じたんです」。

当時、「暗い家を建てたい」と伝えてスタッフを驚かせたU様ですが、10年経った今、おうちを訪れると、「暗い」からこそ生まれるその美しさに息を呑みます。

シンプルさと暖かみを兼ね備えたインテリアが並ぶLDKの光源は、東西の窓からの採光とテーブルスタンド。雨の日や黄昏時には、ライトを消し、キャンドルを灯して過ごすのもU様のお気に入り。暖かみのある穏やかな光の影は、室内に奥行きをもたらします。程よい明るさがホッと安らぐ空間です。

「壁にアートを飾るのが好き」というU様ご夫婦。リノベーションした当時は、広い空間を求めていたため建物の構造上、どうしても取れない柱が含まれる袖壁が残ったことは残念に思っていたそうですが「暮らしてみたら、モノを飾る場所が増えたので、袖壁があって良かったです」と笑います。

壁を優しく照らすライトが、お気に入りのアートを引き立てる。ビンテージの家具やアートが美しく並び、U様の世界観が反映されたかのようなLDKは、まるでギャラリーにいるかのような雰囲気を感じ取れます。ただそこにそっと添えられるのは、どこか馴染みの良い心地よさ。それは、「暮らし」とともにある空間だからこその、隙があるからなのかもしれません。

LDKで印象的なのは、ソファのそばにある腰窓。通りに面する窓は、トネリコの鉢を置くことで直射日光や外からの視線を遮っているので、家の中でも森にいるかのような雰囲気を演出します。

「西日が入ると、塗装の壁に木漏れ日が落ちるんです。壁紙にはない、マットなペンキの質感から生み出される陰影がとてもきれいで、ソファに座ってそれを見るのがお気に入り」とU様。

実はこの木製窓もU様がこだわったポイントのひとつ。「デザインは比率が大事」という意見がご夫婦で一致したU様は、以前暮らしていたドイツの家の写真から窓の比率を計算してフーセットへ持ち込みました。「このサイズで作ってほしいってお願いしたの」と当時を思い出して話します。デンマークにミリ単位でサイズオーダーして取り寄せた木製窓は、どこか優しさを感じる洗練されたデザインです。

「日本の窓と比べると、カギなどの作りが違うので開けるのに一手間かかるけど、そこがいいのよね」と、窓に触れながら愛おしそうに笑みをこぼします。

「あいまいさ」があるからこそ生まれる、とっておきの空間

家の中は、1月というのに床暖房だけでも十分に暖かい。

「夜に床暖房を切っても、朝起きると部屋はまだじんわり暖かいんです。こういうのを“魔法瓶みたいな家”っていうのでしょう。戸建ては寒いと聞いていたけれど、マンションより暖かくて過ごしやすいんです」。

雨の日にほのかな明かりが届くダイニングテーブルが家族のくつろぎの場かと思いきや、「実は、こっちがお気に入りなの」と案内してくれたのはキッチンです。“第二のダイニング”とU様が話すのはキッチンにある小さな空間。丸テーブルに小ぶりのチェアが3つ並んでいます。キッチンのすぐ向かいにあるため、料理を並べたり、食後に食器を片付けたりするのも、移動が少なくて済むのです。ちなみに、この空間は、U様の強いご希望で設けられました。

「もともと外食が好きで、交通アクセスが良い福岡市の中心地に近い土地を選びましたが、家族が成長したことやライフスタイルが変化したこと、またコロナ禍でお家で過ごす時間が長くなり、使い勝手が良い“第二のダイニング”で過ごす機会も増えました。そこで気分転換で、もともと白かった壁を家族で淡いベージュに塗り替えたんです。ペンキ塗りの壁は、自分たちのタイミングで自由にDIYできるのもいいところ。キッチンで過ごす時間が増えたから、今はここから見える庭の植栽を変えたいです。木をもっと窓に寄せて、この位置からも森の中にいるような雰囲気を楽しみたいですね」。

“第二のダイニング”のようなあいまいさは、ほかにもあります。それが、リビングとダイニングをそれぞれ緩やかに仕切るアイアンフレームのガラス戸です。

「洋書で見つけたものを参考に持っていって、『これを作ってほしい』って頼んだの」と、当時、フーセットに持ち込んだ冊子を見せてくれたU様。いくつも付箋が貼られた本から、10年前の家づくりの様子がじんわりと伝わってきました。

U様家族が集うLDKでは、静かに過ごしたい人、音楽を楽しみたい人など、過ごし方がそれぞれ異なります。そんなときはガラス戸を閉めて空間を仕切ることで、思い思いにリラックスした時間を過ごしているのだそうです。

リビングと玄関を仕切るのも同じガラス戸。段差をなくしたフラットな玄関からは、ガラス越しにリビングが見えます。まるで前室のようなとっておきの空間は、あいまいさがあるからこそ生み出されます。

扉の向かいにある階段の3段目もU様のお気に入りの場所。ここに座ると、ガラス戸越しにリビングが見え、お気に入りのインテリアと外からの入る柔らかな光が生み出した、ゆったりとした空間が楽しめます。

実は玄関ドアもU様がこだわったポイントの一つ。大きな玄関ドアも窓と一緒にデンマークから取り寄せています。他ではあまり見ない内開きの玄関ドアは「扉の主導権が家の中にいる家主にある」という発想をある書籍で読んだことをきっかけに依頼を思い立ちました。実際、宅配便などの荷物が届いても自分で扉の開きをコントロールできる点が気に入っているのだとか。

時を重ねて変わった価値観や暮らし方を受け入れ、家族で家を楽しむ

2階はウォークインクローゼットを備えた夫婦の寝室と子ども部屋。子ども部屋の壁はもともと白を採用していましたが、大学生になった娘さん自ら一部の壁を塗り替えました。選んだ色は淡いパープルで、「パリのアパートの一室みたいでしょ」とニッコリした表情で話していました。ライフステージに合わせて、その時々で無理なく家そのものを楽しむ姿が印象的です。

年齢を重ねたことで興味が湧いた新しい趣味など、「10年経つと、思い描いていたライフプランと違うこともたくさんある」とU様は話します。インテリアの好みも変わり、以前はイタリアモダン、その後に北欧スタイル、今は日本の民芸品に心を惹かれているそう。

「作り込みすぎない家づくりができました。だからこそ、変化にもフレキシブルに対応できる家になったのかな」。

家の美しさはそのままで衰えを感じることもなく、暮らしもこだわりのインテリアも年輪のように重ねた年月の分だけ深みを増すU様邸。環境や思考の変化に合わせ、ゆっくりと丁寧に家を育てる暮らしを楽しんでいます。

写真/Katsumi Hirabayashi